この記事では「経営者の心得」について、2000人以上の経営者を見てきた岩松正記税理士事務所代表の岩松正記氏の著書『経営のやってはいけない!増補最新版』よりご紹介します。

経営者が心得ておくべき5つのこと

経営は、結果良ければすべて良し。経営における成功とは、利益を稼いだり名声を得たりすること。では、その結果とは一体いつの時点のことでしょうか。成功とは、一体いつの時点での成功のことなのでしょうか。

繁栄がずっと続くかなんて保証されない

この疑問に真正面から取り掛かったのが、米国の経営コンサルタント、ジェームズ・C・コリンズです。彼が名著『ビジョナリー・カンパニー ~時代を超える生存の原則』で飛躍企業として取り上げた60社の大企業のうち、11社はその後ダメになった。世界的ベストセラーで取り上げた成功事例ですら、繁栄を永遠のものとすることができなかったわけです。そこで彼は、「なぜ企業は衰退するのか」をテーマに原因を追い、『ビジョナリー・カンパニー3 ~衰退の五段階』を書き上げました。

これは著者の良心の表れだと私は思うのですが、結局、成功している、上手く行っているといっても、それはその時点その時代一瞬の出来事で、数年後にどうなっているのかなど誰もわからないのです。繁栄がずっと続くかなんて保証されない。だから今、成功していると言っても後にどうなっているかなんてわからない。

このことの例として挙げられるのが、私が最初に入った会社、山一證券でしょう。私の入社はバブル期の平成元年で、同期入社が400人いました。前年の会社所得ランキングでは10位。今では考えられませんが、その年はトヨタや松下電器を押さえて野村證券が1位で、大和證券や日興證券もベストテンに入っていました。

そんなバブルの象徴である平成元年の12月29日の大納会で、日経平均は3万8千円の史上最高値を付けました。私は株価ボードを眺めながら、「来年は5万円だな」「5年以内には10万円だ」と言っていた上司たちの声が、今も耳に残っています。今ではまったくの笑い話ですが、当時はリアルでした。

今、過去を振り返れば対応策がわかると言っても、それは結果論に過ぎないし、何よりも当時の時点で今考える対策が実行できたかというと、かなり難しかったはずです。

事業を行う人は誰でも事業で成功したい。うまく行きたい。これは当然の話で、失敗したいなどという人がいたら見てみたいもの。誰しも成功するために事業を行うのは当然です。

成功者が「しなかったこと」に注目する

そこで必ず参考にするのが成功者の話です。

経験はすべてに勝る。しかし、何でも全て自分ひとりで経験することなど不可能。だからこそ、他人の成功談や成功体験を聞くのは大変参考になります。

しかしここで注意したいのは、成功談を聞く目的。その本質は、「あくまでも過去に学ぶこと」、この一点にあります。決して成功者の真似をし、言った通りに物事を実行するためにあるのではありません。

成功者の話を聞くのは、そこで得た情報を自分で取捨選択し、自分に合ったやり方を見つけ出すため。特に失敗した方法、やらなければ良かったと成功者が言った方法こそ参考になります。成功者がやって失敗したことは後発の我々はしなければいい。成功者が実行しなかったことは、同様に我々もそれをしなければ、間違いなく同様に失敗しない。

「成功事例に学べ」と言われる一方で、「成功体験が足枷になる」と言われることもあります。驕る平家は久しからず。成功したと言っている人のすぐ後ろには、必ず失敗の影が付いてきてる。だからこそ、現時点で「成功した」などと言っている人の成功事例を聞く時には注意しなければならない。その背後にある「しなかったこと」に注目すべきなのです。

仕組み論なのか思想論なのかを見極める

私は経営者の相談役として、数多くの会社の盛衰を見てきました。また、今もあちこちのセミナーや経営者勉強会に参加しています。多くの経営者の自伝や成功体験本も読みました。

しかし当り前のことですが、どれ一つとして、自分と同じ経験というものはありません。

それどころか、多くの成功者と言われる方々の実例を目の当たりにしておきながら、それらを知っているだけで、ほとんど実行できてはいません。

たとえば、ある社長は毎年元旦に新品の下着を身につけて地元の神社を参拝することに決めている。またある社長は、大晦日から元旦に日付が変わったと同時に神社にお参りに行く。社長さん方は、自分が事業に成功したのはこの習慣のおかげだと言っていました。

別の社長は、名刺を交換した人に必ず手書きのハガキを出す。毎朝会社の周りや便所掃除を欠かさないと言った方もいました。ある社長は、自分のタイムカードを示しながら「毎日6時に出社して夜中の12時に退社するほど仕事したので、会社が上場するまでになった」とおっしゃっていました。

これらは仕組みではなく、社長の生き方そのものの実例です。まずは事例研究といった場合、それが仕組み論なのか思想論なのかは、まず見極めなくてはなりません。

他社の成功例は、自社での再現性が低い

確かに、成功事例の研究はあらゆる事業を始める際に不可欠なものです。

しかし、成功話はある意味その人独自のものであり、実は多くの場合、再現性がありません。後から同じことをやったとしても、同様に100%成功できることは滅多にない。

というより、全くできないと言った方が正しい。

結局、物事に成功するには人それぞれの理由があり、それらは個別のもので、誰にでも当てはまるような普遍的なものではないのです。うまくいった人のやり方は、参考にこそすれ、すでに過去のこと。まんま受け入れてもなかなかうまく行くはずがない。

しかも、実際にそれらを実施して成功しなかったとしても、それは努力が足りないからだと一蹴される。このことに何かしっくり来ない、悶々とした気分になったという人は、決して一人や二人では無いはずです。

成功者からは、失敗談を聞きなさい

私は自分の開業当初から、起業直後の方や起業志望者の相談を受けてきました。それらの中には、5年で売上12億円、利益4億円の会社を築き上げた方や、3年で5店舗出店された方もいれば、1年目の決算を待たずに廃業してしまった方、4年連続赤字で身動きが取れなくなってしまった方など、様々な経営者がいます。そういった方々を見ていて感じるのは、まずはムリせず、できるところからやっているということ。いわば「やってはいけないコト」の実践です。

あるシステム設計者によれば、人は「やってはいけない」「これはダメ」と言われた方が頭に残る。だから、システムを組む時にエラーを出さないようにするためには、やってはいけないことを列挙するとのこと。たとえは悪いですが、犬のしつけでも同じで、まず教えることは「ダメ!」からです。

成功体験談は、いわば「偉人の伝記」みたいなものだと割り切った方がいい。それよりも、やってはいけないことを確認して行った方が、失敗の危険性は少なくなる。「これをやったから成功した」ということよりも、「これをやらなかったから成功した」ということの方が、はるかに再現性が高い。

だからこそ、新しく事業を始める人、事業を永続していきたい人には、ぜひとも「やってはいけないリスト」を作って欲しい。

成功者がやったことよりもやらなかったことに着目し、それを実践して行くのです。やらないことを決めることで、やれることは反対に広がっていきます。

さいごに

この記事では「経営者の心得」について解説しました。

経営者が心得ておくべき5つのこと
  • 繁栄がずっと続くかなんて保証されない
  • 成功者が「しなかったこと」に注目する
  • 仕組み論なのか思想論なのかを見極める
  • 他社の成功例は、自社での再現性が低い
  • 成功者からは、失敗談を聞きなさい

『経営のやってはいけない!増補最新版』(岩松正記 著)では、約120項目の「やってはいけないコト」が解説されています。成功例に比べ、失敗例というのは普遍的なものです。ぜひ参考にしていただき、自分だけのやってはいけないことを決めてください。

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岩松正記

岩松正記税理士事務所代表
東北税理士会仙台北支部所属。現在は紹介のみを受け付けるスタイルで活動している。地方在住ながら東京から米国・東南アジアにまで顧客・人脈を持つことから、税務だけでなく様々な投資情報の提供も行っている。ロータリークラブ、青年会議所等で役員を歴任し、有数の人脈を誇りつつ地元経済界に貢献している。税理士会の役員に就く他、元査察の税理士に仕えていたため税の世界の裏事情にも詳しい。
Facebook:iwamatsu twitter:@iwamatsumasaki

 

【参考】
岩松正記.
経営のやってはいけない! 増補最新版
ジェームズ・C・コリンズ.『ビジョナリー・カンパニー ~時代を超える生存の原則』
ジェームズ・C・コリンズ.『ビジョナリー・カンパニー3 ~衰退の五段階』