意外と知らない、IPOが企業に与える5つのデメリット

意外と知らない、IPOが企業に与える5つのデメリット

この記事では経営者が知っておくべき「IPOに対するよくある勘違い」「IPOが企業に与えるデメリット」について、㈱フロイデ会長兼シニアパートナー 坂本桂一さんの著書『年商5億円の「壁」のやぶり方』よりご紹介します。

IPOとは

起業した人に将来会社をどうしたいか聞くと、たいていIPOという言葉が出てきます。

IPOとは新規に株式を公開する、あるいは証券取引所に上場するという意味です。

以前は日本証券業協会の登録銘柄となる店頭登録と、証券取引所に公開する上場は区別されていましたが、ジャスダックができてからはその区分けはなくなりました。なお、IPOとは英語の Initial Public Offering の頭文字です。

IPOに対するよくある勘違い

IPOをすれば創業社長は大金持ちになれる?

IPOをすれば創業社長は大金持ちになれるというのは間違いだということも理解しておくべきです。なぜIPOをしても大金持ちになれないか、その理屈を説明しましょう。

まずIPOをしたときに、株価がどのように決まるか考えます。起業して十年間必死で働き、ようやく年商百億円の会社にしました。昨年度の税引き前当期純利益が十億円、税引き後当期純利益が五億円。数字だけ見ればかなりの優良企業です。さて、株式公開した場合、この会社の時価総額はどれくらいになると思いますか。ちなみに時価総額とは、株価に発行済み株式数を掛けたものです。

時価総額とは?
時価総額 = 株価 × 発行済み株式数

株式を公開した際、自社の時価総額がどれくらいになるかは、他の公開企業のPER(株価収益率)が参考になります。PERというのは会社の税引き後純利益と株価の関係(割高、割安)を示す指標です。

PERとは?
PER(株価収益率)= 時価総額 ÷ 税引き後純利益

二〇〇〇年代初頭のITバブルのころは、新規公開株のPERが五十〜六十倍はざら、なかには百倍以上などというケースもありましたが、現在はせいぜい十倍がいいところでしょう。そうすると税引き後利益五億円、PER十倍なら、その会社の時価総額は五十億円ということになります。

PER10
PER10 = 50億円 ÷ 5億円

これはどういうことか。年間に税引き後五億円の純利益を上げる優良企業をわずか五十億円、つまり税引き後純利益のたった十年分で買えてしまうのです。

こういういい方もできます。株式公開時には一般の投資家が株を買えるよう、社長は自分のもっている株の何割かを市場に出さなければなりません。仮にそれまで社長が株式の一〇〇%を保有していて、IPOと同時にその三〇%を売ったとしたら、社長の手元には時価総額の三〇%の十五億円が入ります。もしPERが五十倍なら会社の時価総額は二百五十億円ですから、自分の持ち株を三〇%売っても七十五億円、これなら納得できます。しかしPER十倍ではたった十五億円、これではどう考えても割りが合わないでしょう。

私なら株式公開などせず、会社の純利益五億円を社長のボーナスにします。そうすれば株を手放さなくても三年で公開益と同じ額の金が自分のものになるのです(税金を考慮してもそれほど変わりません)。

IPOをすれば会社の信用が高まり、ビジネス上も有利になる?

IPOをすれば会社の信用が高まるので、ビジネス上も有利になると思っている人も多いようですが、はっきりいってこれも思い込みにすぎません。

筆王という年賀状作成ソフトをご存じでしょうか。かつて筆王は私の経営するアイフォーが販売していました。アイフォーは非上場会社です。一方、ライバルの筆まめを販売しているクレオ、こちらはジャスダックに上場しています。

では、一般の人がソフトを選ぶとき、販売元が上場している筆まめのほうがそうでない筆王より信用できるなどと考えると思いますか。商品を選ぶとき、販売元が上場しているか否かなどは、ほとんどの人にとってどうでもいいことなのです。サントリーは非公開企業ですが、だからサントリーのビールは飲まないなどという人を私は知りません。

また、企業同士でも、株式公開しているから取り引き条件が有利になるなどということは、まずないといっていい。株式公開のハードルが高く、いまほど公開企業が多くなかった時代は、たしかに東証の一部や二部に上場していたり、店頭公開していたりといったことがそのまま企業の信用につながりました。しかし、現在のように株式市場が増え、公開条件が緩くなると、株式を公開しているから信用できるなどという理屈は成り立たないのです。

IPOの5つのデメリット

最近は、証券会社にいわれるままにIPOをした結果、不利益を被ったり、経営に支障をきたすようになったりといった悲惨な会社のほうが目につきます。IPOがプラスにならないどころか、時に会社経営にとってマイナスに働くこともあるのは、紛れもない事実です。次に、そんなIPOの代表的なデメリットを5つ列挙します。

IPO のデメリット
  • 赤字が出せなくなる
  • 情報を開示しなければならなくなる
  • 事前にリスクを明らかにしなければならない
  • 億単位の公開維持コストがかかる場合がある
  • 社長の時間が奪われる

赤字が出せなくなる

会社経営の基本は、会社の純資産を大きくすることですが、長期的な発展を考えると、一時的に赤字を出すことも、戦略として必要になります。

たとえば首都圏でファミリーレストランをチェーン展開しているところに、関西から明らかに競合するチェーン店が進出してきたとしましょう。出店先はまだ自分たちが店を出していない地域で、ここが成功すれば次々に店舗を増やしていくのは目に見えています。

この場合、非公開企業なら社長の判断で、競合店の近所に自分の会社の店を出し、赤字になってもいいという覚悟で採算度外視のメニューをつくって客を根こそぎ奪い、競合店を非採算に追い込んで撤退させ、その後にたとえば、自分の店も閉めるという戦略をとることが可能です。

しかし、公開企業だとこの戦略をとるのは難しいかもしれません。なぜなら赤字を出せば株価が下がり、株主の利益が損なわれるからです。もしそんなことをしたら会社の経営陣は、まず間違いなく株主代表訴訟を起こされるでしょう。

株式を公開したら、それが将来的に会社にとってプラスになることであっても、当期に意図的に赤字を出すことは許されません。経営者は株主から常に黒字を出すことを義務付けられるのです。

情報を開示しなければならなくなる

公開企業の社長は、いま会社が何をやっているか、これからどんなことをやるのかということを、できるかぎり株主の前で明らかにしなければなりません。

なぜなら会社というのは公開した時点で、社長個人のものではなく株主のものになるからです。

ついでにいえば株価には過去の実績ではなく、次の決算時の業績予測が反映されています。だから、株主は今期会社が計画していることをできるだけ詳しく知りたいし、会社が発表する情報量が少なすぎると、証券会社もアナリストも、そのレポートは認めてくれないのです。

けれども情報を開示しなければならないというのは、経営面では明らかに不利になります。出店計画や新製品の情報をオープンにすれば、それは株主だけでなく競合企業の耳にも入るでしょう。そうすると、当然相手はそれを下敷きに攻め方を考えてきます。

ところが、相手が非公開企業の場合、情報公開の義務はないので、何をやってくるかわかりませんから、こちらは対策の立てようがなく、不利な戦いを強いられることになるからです。

事前にリスクを明らかにしなければならない

株式を公開していなければ、とりあえずやってみて、うまくいかなければその都度対処していけばいいのですが、株式を公開したら、常に想定されるリスクを事前に公表しなければならなくなります。

この新商品を売り出すにあたっては、消費者からこういうクレームが出る可能性があるので、もしそうなったら会社としてはこう対処する。中国の会社から特許侵害で訴訟を起こされていて、最悪の場合、賠償金の支払いに応じることも考慮に入れている。

こういったシミュレーションを細かく行い、合わせて対策まで立てておくというのは、たいへんな労力です。

また、訴えられているといったネガティブな情報はイメージダウンにつながるので、なるべく表に出したくありませんが、公開企業だとそういうわけにもいかないのです。

億単位の公開維持コストがかかる場合がある

株式を公開すると、IR活動費や監査法人に支払う監査費用、証券事務代行費用などかなりの額の費用が発生します。

どれくらいの金額かというと、たとえば東証マザーズなら一年間の公開維持コストは最低でも一億円程度でしょう。

年商数十億円程度の会社にとって、毎年一億円の出費というのは決して小さくはありません。本当にそれだけの費用を支払う価値があるのか、上場前によく考えるべきです。

社長の時間が奪われる

ベンチャー企業で最も営業力があり、生産性が高いのは社長のはずです。しかし、株式を公開した途端、社長は営業に割く時間を半分にしなければならなくなります。

なぜなら、公開会社の社長は株主対策や株主総会の準備、証券会社や銀行やアナリストとのつきあいなどで、業務時間の約五割は取られてしまうからです。

五割というのは決して大げさではありません。IPOはそのときだけですが、公開企業になるというのはこれから先もずっと、売上に直接関係ない作業に貴重な時間を奪われるということでもあるのです。

IPOのメリットは”株式交換による企業買収”

それではIPOのメリットとは何でしょう。

いろいろな種類の社債が発行できたり、増資で資金調達がしやすくなるというのもそうですが、やはり最大のメリットは、新株を発行して株式交換で企業買収ができるようになるというところにあると私は思います。

企業買収ができる仕組み

その手順を図を交えて見てみます。

【ステップ1】買収先に打診

X社はY社を買収したいと考え、Y社の一〇〇%株主であるA社長に、全株を一千万円で売ってほしい旨を伝え、A社長も承知しました。X社は公開企業で株価は一千円です(公開企業の買収等の手続きは省きます)。ステップ1 買収先に打診

【ステップ2】Y社を100%子会社に

X社はA社長に一千万円を支払い、A社長からY社の全株式を受け取ります。この時点でY社はX社の一〇〇%子会社となりました。ステップ2 Y社を100%子会社に

【ステップ3】新株を発行し、A氏に増資に応じてもらう

X社は総額一千万円分の増資を行い、A社長はX社に一千万円を支払ってそれを引き受けます。ステップ3 新株を発行し、A氏に増資に応じてもらう

ここでは三つのステップを経ていますが、実際は同時に行われるのでお金は動かず、X社は新株を発行してA社長のもつY社の株と交換したにすぎません。つまり、X社は新株を発行することで何もないところから一千万円を生みだしたのです。まさに新株の発行というのは、現代の錬金術といってもいいでしょう。株式を公開するとこういうことができてしまうのです。

ただし、普通は新株を発行すると株式数が増えて、その分株価が下がってしまいます。つまり旧株主が損をするわけです。

しかしながらY社が有望企業であるなら、そのY社を子会社にしたX社の価値も当然上がるので、X社の時価総額は変わらないか、新株分以上増えるのです。

一方、新株を引き受けたA社長は、X社の株主として権利を行使することもできるし、その株をマーケットで売却して現金に換えることもできます。

もちろん未公開企業でも新株の発行はできますが、市場で流通していないので株価の正当性を説明し納得してもらうのがまずたいへんです。それから、引き受けた株の転売も容易ではありませんから、そう考えると未公開企業の新株発行による企業買収は、あまり現実的ではないといえます。

IPOをしていい会社、しないほうがいい会社

IPOをしたほうがいいのは、たとえば電気自動車や風力発電のような装置産業です。この手の会社は長い期間をかけて設備投資をしていくので、短期で返済をしなければならない借り入れより、株式を公開し、さらに必要に応じて増資を行うなどして株式市場で資金を集めたほうが、明らかに有利だといえます。株なら返済の義務はなく、利益を出しきちんと配当さえしていれば、株主は納得するからです。

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このほかにも、不特定多数の人から資金を集めたいとか、社債を発行したいという明確な目的がある会社は、IPOを積極的にやってもいいと思います。

また先程の例のように、これからたくさん企業買収を繰り返す予定のある会社には、公開のメリットは大きいでしょう。

逆に、IPOをしないほうがいいのは、たとえば年商十億円で三億円の利益を出しているようなデザイン会社。株式市場でお金を調達する必要もないし、仮にそこでまとまった資金を手に入れても使い道がないでしょう。それなのにIPOしたら毎年一億円ずつ公開維持コストを払わなければならなくなる、おまけに社長はいちばん大事なデザインの仕事が、銀行や証券会社との応対などで半分に削られてしまうのです。

実際、本業が好調だったところに証券会社から強く勧められ、わけのわからぬままIPOし、結果的に後悔しているこのデザイン会社の社長のような人を、私は何人も知っています。

IPOさせたいのは証券会社の都合にすぎない

できるだけたくさんの会社をIPOさせたいというのは、公開企業の株を売買するために存在している証券会社の都合にすぎません。それに、すでに述べたように、最近は数年前に比べIPOのメリットが圧倒的に減っているのです。

専門的な知識までは必要ありませんが、せめてこの記事に書いてあることくらいは、すべての社長が知っているべきだと思います。大事なのは原理原則をわかっていること。そのうえで、IPOをする、しないの判断をすればいいのです。

さいごに

この記事では「IPOが企業に与えるデメリット」について解説しました。

IPOの5つのデメリット
  • 赤字が出せなくなる
  • 情報を開示しなければならなくなる
  • 事前にリスクを明らかにしなければならない
  • 公開維持コストがかかる
  • 社長の時間が奪われる

記事の内容について詳しく知りたい方は、『年商5億円の「壁」のやぶり方』(坂本桂一 著)をお読みください。

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坂本桂一

㈱フロイデ会長兼シニアパートナーhttps://www.freude.bz/
山形大学客員教授。事業開発プロフェッショナル。アドビシステムズ㈱(当時社名アルダス㈱)を設立しページメーカーをはじめて国内に独占契約で導入、日本のDTP市場をゼロから創造した。専門は、新規事業創出、ビジネスモデル構築、M&A。


【参考】坂本桂一.
年商5億円の「壁」のやぶり方