この記事では、マネジメントクラブの齋藤健太が実際にコンサルティングした「アパレル販売企業F社」の事例をもとにデータ分析の手法を解説していきます。

商品名などは伏せているほか、実態から大きく外れない範囲で数値データを加工していますが、実際に近いケースを扱うことで、この記事をお読みのみなさんが現実感を持ちやすく、現場のニーズを当てはめやすいものとなるよう構成しています。

齋藤健太
この記事を書いた人
齋藤健太
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表 / 『問題解決のためのデータ分析』著者

多すぎても少なすぎても問題を生む在庫

在庫というものはとても厄介です。「在庫を抱える」ということは、「仕入が発生」し、「売上が上がらなくても費用が発生する」ので、売れなくてもお金を支払う必要があります(買い取りの場合)。

もし、在庫を抱えても十分に売れなかった場合、商品が余ります。その余った商品にかかった金額は返ってきません。余ったら余った分だけ赤字が増えるのです。

一方、在庫を絞った場合は、在庫が切れてしまったために欠品となってしまう可能性があります。つまり「売り逃し」という状況です。この場合、本来は取れるはずであった売上が取れず、結果、利益も上がりません。

つまり、在庫は多すぎても少なすぎても問題が発生します。

この「在庫」を適切に数量管理することが、キャッシュ(お金)を最大化するために重要なことなのです。

ケーススタディに入る前に、在庫を分析する上で必要な次の3つの指標について説明します。

在庫分析の3つの指標
  • 在庫回転率
  • 平均在庫高
  • 在庫回転期間

適切な在庫を把握する

適切な在庫を把握するのに必要なデータ分析のひとつが、「在庫回転率」の分析になります。

在庫回転率とは、一定期間(1年や半期、四半期など)に在庫が何回入れ替わったかを示す数値です。

在庫回転率の値が大きいほど、仕入れてから販売に至るまでの期間が短く、効率よく売上につながっていることになります。
反対に、在庫回転率の値が小さいほど、売れずに倉庫などに残っている期間が長く、売れ残りのリスクがあります。ただ、この在庫回転率は、商品によって異なるため、アパレル・化粧品・飲料などといった異なる商品特性のものを一緒に比較することはできません。

在庫回転率を比較する際には、分析する商品群の特徴や売れ方などを十分に考慮する必要があります。基本的には同じ商品群の中での比較になります。

在庫回転率は、以下の式で表します。

在庫回転率
在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫高

たとえば、1年間を期間とした場合、売上原価は、その1年間に売れた商品の売上原価になります。そして、平均在庫高は、その1年間のスタート時における在庫(期首在庫)と1年間の終わりのときの在庫(期末在庫)を足して2で割った金額になります。こちらも原価です。

平均在庫高
平均在庫高 =(期首在庫 + 期末在庫)÷ 2

また、同じように在庫の効率性を分析する指標に「在庫回転期間」というのもあります。

これは、在庫を何カ月分持っているかを示す指標で、以下の通り在庫回転率の逆数となります(1年間を期間とした場合)。

在庫回転期間(月数)
在庫回転期間(月数)= 在庫高 ÷(売上原価 ÷ 12)

在庫回転期間は、上の式のように月ベースで表す「在庫回転月数」のほかに、週ベースや日ベースで表すこともあります。週ベースでは52、日ベースでは365で割ることになります。どの期間をベースとして算出するのか、値を利用するときには注意してください。

在庫回転期間も在庫回転率と同じく、商品によって基準値は異なります。

データ分析の実例 / 適切な在庫管理に向けた在庫管理表の作成

ここからは、以下の実例をもとにデータ分析による適正在庫に向けた在庫管理表の作成について解説していきます。

Case Study
業種

アパレル販売企業F社
課題
数年前から売上・利益ともに減少傾向。データ分析を行うことで、現在の売上および利益の減少要因を明確にし、今後改善する見込みがあるのか把握したい。

F社の在庫管理における課題を把握するために、以下のデータ分析のアプローチに沿って、現状を分析していきます。

データ分析のアプローチ
  1. 課題の見極め(目的の明確化)
  2. 仮説の洗い出しと絞り込み
  3. 分析方法の定義
  4. 情報(データ)の収集
  5. 分析

参考:データ分析の効果的なアプローチ

目的の明確化

このケースでは、「在庫が収益を圧迫している要因を見極め、在庫適正化を図る」ことが目的となります。

仮説の洗い出しと絞り込み

売上・利益のロスの原因として、在庫管理の面から図表1のように仮説を立てていきます。

有力と考えられるのは、売れ筋商品(売上規模の大きい商品)の欠品が生じていたり、売上規模の小さい商品が過剰に在庫されていることにより、総在庫と比較して十分な売上が確保できていないことから収益性を圧迫しているという仮説です。

図表1 このケースにおける仮説

課題や仮説を洗い出すための考え方については、「誰でもできる問題解決に欠かせないロジカルシンキングの手法」を参照してください。

分析方法の定義

以下の2つの視点で分析を行います。

1.商品別売上および在庫傾向の見極め
→ 商品別の売上および在庫状況を明確にすることで、現状の収益圧迫要因を明確にする
2.売れ筋商品と死に筋商品の状況把握
→在庫状況に基づき、売れている商品と売れない商品の違いを明確にする

情報(データ)の収集

商品別の売上および在庫状況(推移)

分析 / 「在庫管理」のデータ分析

それでは、実際にデータ分析を進めていきましょう。

商品カテゴリ別の傾向を把握する

まずは、大きなところから捉えていきましょう。売上と利益の減少を招いている元凶として、「適切な在庫管理ができていないこと」が課題になっています。

在庫管理について分析する場合、管理する商品ごとの在庫を見ていきますが、いきなり各商品で分析をしても、細かすぎて傾向が掴めませんので、まずは商品カテゴリで見ていきます。

図表2に示した商品カテゴリ別の売上高・粗利額は、売上構成比の高い順に並べています。売上高に関しては、上位カテゴリを中心にほとんどの商品カテゴリで減少しています。

粗利額は全体としては減少傾向で、特にトップ3の商品カテゴリで減少が顕著となっています。ただ、売上高の減少ほどには大きくはありません。以上のことから、粗利率よりも売上に課題があることがわかります。

図表2 商品カテゴリ別の売上高・粗利額

 

F社の状況として、アパレル業界全体の市場減少に伴い、売上が下がっても利益は残そうと努力してきた形跡が見られますが、このままでは行き詰まるのが目に見えています。何とか売上を上げる施策を実行しなければなりません。

売上について、もう少し分析してみます。

図表3の上のグラフは、商品カテゴリ別の取り扱い商品数を示し、売上構成比の高い順に並べています。売上構成比の高い商品カテゴリを中心に、取り扱い商品数が増加していることがわかります。

一方、下のグラフは、売上規模別の商品数になります。たとえば、一番上の「1000万円以上」の棒グラフは、1商品で年間1000万円以上を売り上げる商品を示します。2016年度は1つの商品で1000万円以上売り上げる商品が76種類あったのに対し、2018年度には67種類に減っているということです。

図表3 商品カテゴリ別の取り扱い商品数と規模

図表3から、取り扱い商品数は増加傾向にあるものの、1つの商品で効率よく大きな売上を上げる(=稼げる)商品が減っていることがわかります。

在庫状況を明確にする

ここまでのデータ分析で、売上減少要因は、「取り扱い商品数が増えた一方で、1商品当たりの販売金額が減少したこと」であることがわかりました。仮説として、各商品の管理が適切にできておらず、次の2つの状況が発生していると考えられます。

  • 本来売れるはずの商品が切れてしまっている
  • 売れない商品を余分に仕入れてしまっている

特に商品が切れてしまっている点においては、売上高が大きく減少した一方で、粗利額に関しては、売上高ほどの減少には至っていないことからも、在庫を絞って利益を捻出したと考えられます。

それでは、仮説を確かめるためデータ分析を続けましょう。

図表4の左側のグラフは、各商品カテゴリの在庫高の推移になります。

図表4 商品カテゴリ別と上位100 商品の在庫高

これを見ると、上位カテゴリのうち、レディスカジュアル、レディスモード、レディスキャリア、メンズキャリアでは在庫高が増え、メンズカジュアル、メンズモード、レディスビジネス、メンズストリートでは在庫高が減っています。つまり、商品カテゴリによって在庫状況にバラつきがあることがわかり、管理体制がしっかりできていないことが想定されます。

次に、同じく図表4の右側のグラフは、各商品カテゴリの中の上位100商品のみの在庫高の推移になります。こちらを見ると、先ほどのカテゴリ全体と異なり、全商品カテゴリにおいて、上位100商品の在庫高は減少していることがわかります。したがって、F社は全商品カテゴリにおいて一斉に、しかも売上構成比の高い上位商品を中心に在庫圧縮をしてしまったことがわかります。

特に、売上構成比の高いレディスカジュアルとレディスモードなど、全体の在庫高が増えている一方で、上位100商品の在庫高が減っているような商品カテゴリは、売れるはずの上位商品に欠品が生じている可能性があるといえるでしょう。

また、全体在庫高の増加の一方、売上高が減少しているので、売れない商品を余分に抱えている可能性も大いにあります。

売れ筋商品の欠品と死に筋商品を把握する

こうして商品カテゴリごとの傾向を掴むことができました。

特に売上高上位であるレディスカジュアルとレディスモードに問題が多そうです。

  • 売上高は減少している〈図表2〉
  • 取り扱い商品数は増加している〈図表3〉
  • 在庫高も増加している〈図表4〉
  • 売上高上位商品の在庫高は減少している〈図表4〉

上記より、この上位2つの商品カテゴリにおいて、次の2つのことが想定されます。

    • 売れ筋商品の在庫が足らずに、本来であれば売れるはずなのに欠品を起こしてしまっている
    • 売れない死に筋商品を多く抱えてしまっている

それでは、実際に商品ごとの消化率を見てみましょう。

消化率とは、期間内において仕入れた商品のうちどの程度が売れたのかを表す指標で、「消化率 = 売上数量 ÷ 仕入数量」で表されます。消化率が100%に近ければ近いほど、仕入れた数量が十分販売されているということになります。

しかし、100%に近い場合は、欠品が起こっている可能性があります。本当は店頭に置いておけば売れたはずなのに、在庫がないため売れない。しかし、消化率としては100%で算出されるので、仕入れた分を販売できているからよい、と勘違いしてしまうことがよくありますので、ご注意ください。

一方で、消化率が0%に近づけば近づくほど「売れていない」ことになります。消化率が50%を割るような商品は、「仕入れた数量ほどお客様は求めていない」と判断されます。在庫が最終的に残ってしまうと、廃棄処分となり、仕入れたコスト分がそのまま赤字となります。したがって、仮に一定期間販売しても消化率が芳しくない場合は、値下げなどして、少しでも現金回収を目指すこ
とが必要となります。

以上を踏まえて、F社の商品別の消化率を見てみましょう。

商品別の消化率〈図表5〉を見ると、消化率が90%を超えている商品が多数存在しているのがわかります。

図表5 商品別の消化率

仕入れた分をすべて販売してしまっている消化率100%の商品も存在しています。これらの商品は欠品を起こしてしまっている可能性が大いにあります。売上増加および利益額増加をまだ十分に狙える商品でしょう。

一方で、消化率が50%を下回る死に筋商品も多数存在しています。

これらの商品はすでに仕入れてしまっているため、どうにかして売って、少しでも現金回収するほかありません。値引きやセールなどで少しでも多く販売することが重要でしょう。

打ち手の検討

以上のデータ分析より、今後のF社の方針が固まりました。

  • 死に筋商品の値引きセールを大々的に行い、在庫を少しでも販売することで現金を生み出す
  • 生み出した現金を使い、売上高上位商品の中でも消化率が100%に近い、欠品発生の可能性が高い商品の仕入数量を増やし、売上増加を狙う。

この2つの方針を、F社にとって影響力の強いレディスカジュアルとレディスモードの商品カテゴリに絞ってまずはトライしてみることにしました。

在庫には日々悩まされるという方も多いかもしれませんが、データ分析をすることで、少しでも適正在庫へと近づけることは可能なのです。

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【出典】齋藤健太問題解決のためのデータ分析