この記事では、マネジメントクラブの齋藤健太が実際にコンサルティングした「化粧品メーカーE社」の事例をもとにデータ分析の手法を解説していきます。

商品名などは伏せているほか、実態から大きく外れない範囲で数値データを加工していますが、実際に近いケースを扱うことで、この記事をお読みのみなさんが現実感を持ちやすく、現場のニーズを当てはめやすいものとなるよう構成しています。

齋藤健太
この記事を書いた人
齋藤健太
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表 / 『問題解決のためのデータ分析』著者

コストをかけずに売上を上げるには?

コストをかければその分だけ売上が上がったのは、もう一昔前の話です。もちろん、かけるコストと売上に相関関係はありますが、その係数は以前に比べると極めて小さくなってしまっています。

そうはいっても、コストをかけないと売上は上がりません。

求められているのは、なるべく少ないコストで売上高を最大化する方法です。その答えは、お客様の声に耳を傾けることで見えてくることが多々あります。

実例 / コストをかけずに売上を最大化する

ここからは、以下の実例をもとにデータ分析から打ち手の検討までの流れを解説していきます。

Case Study
業種

化粧品メーカー E社
現状
卸と直販の両方で売上を立てているが、数年前からDMやカタログ、ウェブサイトといった自社チャネルを用いた「通販」での直販の販売強化に比重を置いている
課題
広告費を増やして売上増加を図っているが、なかなか思うように売上が伸びず、コスト高となっている

このE社のように、もともとは卸中心でやっていたものの、顧客への直接販売に軸足を移すことは、今では当たり前になっています。それは、直接販売により利益率が上がることもそうですが、それ以上にお客様の顔が見え、何より「顧客データ」などの貴重な資産が手に入ることが大きいからです。

E社も、「長く続く企業であるためには、自社内で顧客データを直接保有し、手厚いサービスをすることが重要だ」という経営者の考えから直接販売を始めています。商品やサービスを購入しているのはお客様であり、お客様のプロフィールによって「どんな買い方をしているのか」さえわかれば、同じようなプロフィール層に適切なアプローチをすることができます。

また、新たな商品やサービスの開発をした際にも、顧客情報を持っているので、お客様に対して新商品・新サービスの告知をすることができます。

開発前にお客様へアンケートを取って要望を吸い上げることや、トライアル販売による検証を行うこともできます。もともと自社のお客様であれば、そこにかかる広告コストは、新たに新規のお客様を開拓するよりもはるかに安くなります。

すでに手元にある「お客様の情報」をデータ分析することで、「コストをかけずに売上を上げる」ことが可能なのです。

E社のように直接お客様に商品販売する形態のことを「ダイレクト・マーケティング」と呼びます。DMやウェブサイトによる集客・販売が主な方法ですが、営業担当者による直接販売も含まれます(ここではDMを「直接お客様に告知するハガキや封書、メールマガジン」と定義します)。

DMにより集客・販売する際、「誰に、どんな内容を、どのくらいの頻度で」送るかがとても重要になります。

頻度が多ければいいというものでもありません。自分がお客様の立場で考えたらわかりやすいのですが、頻繁に同じようなDMが同じ企業から届いたら、気分よく思わないでしょう。むしろ悪い印象を持つはずです。したがって、自社のお客様にとって最適なやり方でDMを打つ必要があります。

その際にデータ分析をすることで、どんなお客様がどの商品をどんな頻度で購入しているのかを知ることができるのです。

DMの効率を高めるために必要な効果測定

DMを打つ際の重要なポイントは、「必ず効果測定をすること」です。

DMからどの程度、実際の購入につながったのか、反応率を算出しながら分析することが大切です。

この反応率は、「CPO」と呼ばれる指標で評価します。CPOはコスト・パー・オーダー( Cost per order )の略で、1つの注文を取るためにかかった費用のことを指します。

具体的には、「CPO = 広告の総費用 ÷ 注文数」という計算式で求めることができます。

たとえば、広告の総費用が100万円で、注文数が100件だとすると、CPOは1万円になります。このCPOが低ければ低いほど、「効率のよい広告」ということになります。

DMを打つ際は、費用に対してどのくらいの売上が上がればコストが回収できるかを、頭の中に入れておく必要があります。

また、「CVR」という指標も使用します。CVRはコンバージョン率(Conversion Rate)の略で、「成約率」のことを指します。DMを発送した、あるいはウェブサイトを訪れた人数に対して、どのくらいの割合の人が実際の購入や申し込みに至ったのかを示す指標です。

CVRを指標として扱う場合は、どの数値を分母として判断するかを明確にする必要があります。通常、ウェブサイトに訪れた人数全体の中で、何人がコンバージョンに至ったのかを測定します。ECのウェブサイトの場合は「購入者の人数」で計ることが多いです。

ここまでの内容を踏まえて実際にE社の事例を確認していきます。課題を把握するため、以下のデータ分析のアプローチに沿って現状を分析していきます。

データ分析のアプローチ
  1. 課題の見極め(目的の明確化)
  2. 仮説の洗い出しと絞り込み
  3. 分析方法の定義
  4. 情報(データ)の収集
  5. 分析

参考:データ分析の効果的なアプローチ

目的の明確化

このケースの目的は「コストを抑えた上で売上増加に向けた施策を構築する」ことになります。

仮説の洗い出しと絞り込み

収益性が落ちているという現状から、次の図表1のようなロジックツリーで仮説を洗い出しました。

図表1 このケースにおける仮説

ここから広告宣伝費などのコストのかけ方が適切でないことが、十分に既存顧客のリピート率が上がらず、収益を圧迫しているという仮説を立てました。

課題や仮説を洗い出すための考え方については、「誰でもできる問題解決に欠かせないロジカルシンキングの手法」を参照してください。

分析方法の定義

以下の2つの視点で分析を行います。

1.コスト効率の見極め
→ 投入している広告費に対する売上効果を明確にする
2.顧客属性別の購入状況の見極め
→ 顧客の買い方(頻度・累積購入額・最新購入日)別の傾向を把握する

情報(データ)の収集

「コスト効率の見極め」「顧客属性別の購入状況の見極め」のため、以下の情報を収集します。

  • 広告コスト別の売上状況
  • 顧客ごとの購入状況

分析 /コスト効率の悪い顧客を洗い出す

ここからは、実際にデータを整理し分析していきます。

コスト効率の現状を知る

まずは、大きな傾向として現状のコスト効率を把握します。

E社のP/L推移〈図表2〉は、コストをかけて売上増加を図り始めた2018年度とその前年の2017年度の売上高、および両者の比較です。

図表2 E 社のP/L の推移

2017年度から2018年度にかけて、広告宣伝費を増加させた分、売上高も増加していますが、増加率は5%程度と、広告費の増加分すら回収できていません。

その結果、営業利益および営業利益率を大きく減少させており、効率が悪くなっていることが一目瞭然です。

顧客の傾向を知る

では、なぜE社ではこんなにも広告宣伝費が増加したのでしょうか? それは、キャンペーンのDMに力を入れ、毎月きれいなパンフレットを作成して、1万5,000人の登録会員全員にDMを送付していたためです。

しかし、広告費をつぎ込んで直販の売上を増加させるという狙いが大きく外れ、想定した売上には程遠い結果となってしまいました。

「お客様と接する」機会であれば、実際に会っていなくても接客です。今回の場合、DMがお客様の手元に届くということは、そのDMがお客様に接客をしていることになります。しかし、その接客がお客様の顔を見ておらず、ニーズを捉えていないものとなってしまっていたのです。

そこで、実際にお客様がどのような買い方をしているのか分析してみます。

図表3を見ると、年間購入回数が1回というお客様が全体の半数近くを占めていることがわかります。また、年間2回は22%、年間3回は12%と、購入回数が増えるにつれて構成比は減少していて、1年間に購入した全人数は約6,500人となっています。しかし、先ほど説明したように、E社は毎月、すべての登録会員1万5,000人に対してDMを打っています。

図表3 E社の顧客の購入回数状況


1年間に1回でも購入した人数が6,500人なので、約8,500人は1年以上購入していないお客様となっています。

DMを打つことで、購入頻度の低いお客様の購入回数を底上げすることを目指したのですが、結果にはつながらなかったことがわかります。

そもそも、買い方の異なるお客様に対して同じDMを打っていても、十分な効果を得られません。

毎月のように買っていただいているお客様と、年に1回しか買わないお客様、ここ1年まったく買っていないお客様とでは、その商品に対する気持ちが異なります。それぞれのお客様の気持ちに応えるように、DMを実施することが大切なのです。

お客様の購入状況に応じた打ち手を考えるためには、RFM分析(Recency frequency monetary analysys)という「よい顧客を見分ける」方法が便利です。

RFM分析の3つの側面
  1. Recency(リセンシー):一番最近に購入した顧客は誰か
  2. Frequency(フリークエンシー):頻繁に購入する顧客は誰か
  3. Monetary(マネタリー):一番お金を使ってくれている顧客は誰か

参考:RFM分析

RFM分析を行うには、データベースに購買履歴が記録されていることが前提となります。購買状況を時系列で追えないような顧客管理の方法の場合、RFM分析はできません。E社のように直接お客様へ販売していて、かつ会員登録をさせている企業だけができる分析法です。

RFM分析によって数値化された顧客ごとに最適の施策を構築して実行することが理想的な営業といえます。

顧客の属性別の傾向を分析する

E社のRFM分析〈図表4〉を見てください。リセンシー(最新購入経過月)が近いほど、フリークエンシー(年間購入回数)やマネタリー(年間購入金額)の高い顧客が多くなっています。一方、リセンシーが遠いほどフリークエンシーやマネタリーも低い顧客が多くなっていることがわかります。

図表4 E 社のRFM分析

顧客全体の傾向を掴んだことで、購入頻度の高い顧客と低い顧客、購入していない顧客のそれぞれに対して、同じようなDMを頻繁に打ちすぎていることが、広告宣伝費に対して十分な売上が上がっていない要因であるとわかりました。

具体的な打ち手につなげるために、もう少し顧客の傾向を深掘りしていきます。

E社は電話やFAX、ウェブサイトと、さまざまな通販チャネルを活用しています。電話やFAXなどで購入しているお客様に関しては、ハガキや封書でのDMが適切な方法となるでしょう。

一方、ウェブサイトで購入しているようなお客様には、メールマガジンや、Facebook・LINEなどのSNSツールが効果的な販促方法となります。

なぜなら、人はできるだけ簡単に購入したいからです。そのためには、使用するチャネルを変更したくありません。変更するのは面倒くさいと感じてしまうのです。ハガキDMを見て購入したいと思った商品があった場合、パソコンを開くのは面倒くさいと感じると思われます。その場で、電話で注文したいと思うでしょう。反対に、電子メールでメールマガジンが送られてきて「注文はこちらの電話番号におかけください」と書いてあったら「購入ウェブサイトのURLを教えてよ!」と思うはずです。

テレビショッピングもよい例です。その場で電話をかけさせますよね。よくあるテレビCMのように「続きはウェブで」ではないですが「購入はウェブで」などと案内している通販番組はありません。これも番組を見ているお客様ができるだけ買いやすいようにするためなのです。

したがって、E社においても、普段購入しているチャネルに応じた販促施策が必要と考えられます。

そこで、図表5のチャネル別の購入顧客数を見たところ、チャネルによって顧客の年代層が異なることがわかります。

図表5 チャネル別の購入顧客数

PCやSP(スマートフォン)などウェブサイトでの購入は、20代後半~40代後半が中心となっています。一方、電話やFAX、ハガキといったアナログでの購入は、50代~70代が中心となっています。定期お届けでの購入は、その中間くらいで40代~60代が中心と、購入チャネルによって顧客層が分かれていることが判明しました。

以上の分析結果より、次のような仮説が導き出されます。

仮説
  • 1年間に1回以上購入している顧客と、1年間で1回も購入していない休眠顧客に分けて販促施策を実施することで、コスト効率が向上するのではないか。
  • ウェブサイトで購入している顧客はメールマガジンやSNSツールによる販促中心、電話やFAXなどのアナログ媒体で購入に至っている顧客にはハガキDM中心に販促施策を実施することで、購入率が上がるのではないか。

打ち手の検討/売上をキープしたまま広告費を絞る

実際に、先ほどの2つの仮説をもとに広告費を絞りました。

具体的には、1年間に1回以上購入のある顧客にだけDMを打つこととし、頻度も「1カ月に1回」から「2カ月に1回」へと半分に減らすということを試しています。

その結果、今まで1万5,000人に対してDMを打っていたのが、対象が6,500人程度に減り、かつ回数も半分になったため、コストが大幅に削減されたにも関わらず、売上は横ばいをキープしたのです。コストをかけない分、利益額は大幅増加です。

また、既存顧客に対してコストを削った分、1年以上購入のない休眠顧客に再度自社商品を使ってもらうための掘り起こしとして、休眠顧客限定のキャンペーンDMを打ちました。

約8,500人に対してDMを打ったところ、反応率1%を超える100人以上に再度購入してもらえました。

このように、データ分析によって顧客の状況に見合った販促施策を行うことで、コストを削減しながら売上を増加させることができるのです。

E社の今後の課題としては、毎年、半数以上も休眠顧客を出してしまっていることです。休眠顧客を出さないためには、リピート顧客を増やすことが重要です。

化粧品だと特にそうですが、その場合「定期購入」をしてもらうのが最も効果的です。実際に、E社のチャネル別の購入状況〈図表6〉を見ると、「定期お届け」が他の購入チャネルと比較して購入金額も購入回数も倍以上となっています。

図表6 E 社のチャネル別の購入状況
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【出典】齋藤健太問題解決のためのデータ分析