この記事では、マネジメントクラブの齋藤健太が実際にコンサルティングした「エステサロンI社」の事例をもとに、消費者調査によるデータ分析の手法を解説していきます。

商品名などは伏せているほか、実態から大きく外れない範囲で数値データを加工していますが、実際に近いケースを扱うことで、この記事をお読みのみなさんが現実感を持ちやすく、現場のニーズを当てはめやすいものとなるよう構成しています。

齋藤健太
この記事を書いた人
齋藤健太
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表 / 『問題解決のためのデータ分析』著者

データを活用して内部の説得をスピーディーに進める

既存事業の改善はもちろん、商品開発や営業政策など新たな施策を打ったり、新事業を展開したりする際に、消費者調査によるデータ分析を活用することで、数値データに基づき行動することが可能となります。

特に大きな組織では、内部の説得に手間取ってしまい、新たな施策をなかなか実行に移せないことも多いようです。しかしデータ分析をすることにより数字で立証していけば、説得力が増して稟議が通しやすくなり、物事をスピーディーに進めることが可能です。ここでは新たな営業政策の実施を検討している「エステサロンI社」の事例をもとに、消費者調査によるデータ分析の進め方を解説します。

データ分析の実例 / 顧客のニーズが分かる消費者調査の方法

ここからは、具体的なデータ分析の流れを解説していきます。

Case Study
業種

エステサロン I社
課題
初回トライアルを安価に提供して集客しているが、チケットを購入するようなリピート客になかなかつながらない。
本来は30代~40代の女性を狙いたいのだが、上記の施策で来客する顧客層は10代~20代の若い層が多い。

I社の顧客創出における課題を把握するために、以下のデータ分析のアプローチに沿って消費者調査を行い、現状を分析していきます。

データ分析のアプローチ
  1. 課題の見極め(目的の明確化)
  2. 仮説の洗い出しと絞り込み
  3. 分析方法の定義
  4. 情報(データ)の収集
  5. 分析

参考:データ分析の効果的なアプローチ

目的の明確化

目的は、「I社エステサロンにおける30代~40代女性のリピート顧客の創出」です。

仮説の洗い出しと絞り込み

現状、30代~40代女性に対して適切なアプローチができていないことが想定されます。仮説を図表1のようにロジックツリーで整理しました。

図表1 このケースにおける仮説

※上記仮説は、エステサロン利用者へのヒアリングに基づき整理しています。

課題や仮説を洗い出すための考え方については、「誰でもできる問題解決に欠かせないロジカルシンキングの手法」を参照してください。

分析方法の定義

以下の2つの視点で分析を行います。

1.エステサロンの選択要因
→ エステサロンを選択する基準を明確にする
2.エステサロンI社の評価状況
→ エステサロンを選択する基準に対してI社の評価を比較することで、改善ポイントを把握する

情報(データ)の収集

「エステサロンの選択要因の明確化」と「エステサロンI社の評価状況の把握」のため消費者調査を行い、以下のデータを収集していきます。

  • エステサロンの選択基準
  • エステサロンI社の評価状況

分析 / 精度の高い消費者調査の実例

実際に、消費者調査によるデータ分析を進めます。

調査設計

今回は、30代~40代の女性を狙っていきたいので、女性を年代別(10代・20代・30代・40代・50代・60代以上: 各年代100名ずつ)に分けて調査します。

初回トライアルにより集客はできているものの、次につながっていません。これは、集客施策ではなく、そもそも女性がエステサロンを選ぶ基準とI社のサロン(サービス・価格・接客など)に乖離があることが考えられます。

つまり、「初回トライアルが安いから試しに行ってみたけど、通い続けるには違うのよね」といった気持ちをお客様に抱かせている可能性が高いといえます。

そこで、まずは女性がエステサロンを選択する際の基準と、それぞれの基準に対するI社の評価を分析することにより、そもそもI社エステサロンのどこに問題があるのか、どこにテコ入れが必要かを明確にしましょう。

エステサロンを選定する基準を抽出するにあたり、Googleで「エステサロン 口コミ」と検索したところ、以下のエステサロンの口コミランキングウェブサイトが見つかりました。

『 実際の利用者が評価した、オリコン顧客満足度ランキング エステサロンのランキング・比較』
http://beauty.oricon.co.jp/rank_esthe/

ほかにもウェブサイトは数多く出てきますが、調査設計するにあたって活用できそうなウェブサイトを選んでください

今回、上記のウェブサイトを選んだ理由は、日本最大級の調査規模を誇り、かつ業界を問わずさまざまな調査を実施しているため公平性があるだろうという仮説と、よいと思うエステサロン選定の基準が載っていたことです。

このウェブサイトに書かれている基準を参考にして、エステサロンを選定する際の基準をブラッシュアップします。その上で、エステサロンを選定するのに重要だと思う項目とI社の評価を消費者調査で聞いていきます。ちなみに、実際にエステサロンを利用している消費者複数人にヒアリングすることで、調査内容をブラッシュアップします。

ヒアリングの結果、尋ねる項目は、次のように設定しました。

  • 予約の取りやすさ
  • 通いやすさ
  • 店舗内の清潔さ
  • 施設(施術機器や化粧品)の充実度
  • スタッフの知識の高さ
  • スタッフの技術力の高さ
  • スタッフの対応・接客態度
  • 効果の即効性
  • わかりやすい価格設定
  • コストパフォーマンス
  • アフターケア(施術後のスキンケアアドバイス等)
  • 企業の信頼性や知名度

そして、図表2のように、エステサロンの選定基準とI社の評価を調査設計しました。選ぶ基準やよいと思う項目は1つとは限らないので、複数回答としています。

図表2 エステサロンの選定基準とI 社の評価(調査設計)

独自調査の調査設計の詳しい方法については、「5つのポイントが明暗を分ける!独自調査の調査設計」で解説しています。

調査結果

図表3の調査結果を見ると、すべての項目についてエステサロンの選定基準とI社の評価に差があるように見え、特に、選定基準として評価の高い「通いやすさ」「わかりやすい価格設定」「コストパフォーマンス」「スタッフの技術力の高さ」「スタッフの対応・接客態度」について課題が大きそうに見えます。

図表3 エステサロンの選定基準とI 社の評価(結果)

しかし、実はこのままでは正しい分析にはなりません。というのも、業界全体と特定の企業を評価する場合、企業の評価のほうが厳しく出る傾向が強いからです。また、認知度なども関係するため、どうしても企業の評価のほうが低く出がちです。

そこで、図表3の各項目について選定した人数構成比のグラフを、偏差値に直します〈図表4〉。

図表4 エステサロンの選定基準とI 社の評価(偏差値)

元のグラフとは明らかに違うのがわかりますね。

2つの線の重なりが増えました。エステサロンを選ぶ基準とI社の評価がそれぞれ偏差値の平均50となったためです。

偏差値への変換方法はのちほどお伝えしますが、偏差値に変換することで、業界全体の評価と企業の評価という回答者の選択基準が異なる指標においても、偏差値50に平均値を合わせることで、それぞれどの項目で評価が高く、どの項目で評価が低いのか、同じ目線で見ることができます。

この場合、偏差値に変換すると「女性がエステサロンを選ぶ基準」と「I社の評価」により乖離のある項目がわかります。

まず、企業の認知度は極めて高いことがわかります。企業として信頼性があるのは、大きな強みです。しかし、その一方で、「通いやすさ」「わかりやすい価格設定」「コストパフォーマンス」については評価が低くなっています。

打ち手の検討 / 調査結果をもとにした営業政策を立案

せっかく企業としての認知度が高いのに、店舗の場所がわかりづらかったり通いづらかったりするのは、もったいないといえます。今後の店舗出店における立地選定や店舗の告知方法などを改善する余地があるでしょう。

また、すぐにでも施策を講じる必要があるのが、「価格」です。価格については、改定しようと思えばすぐ実行することが可能です。

現状「価格設定がわかりにくく、コストパフォーマンスも良くない」と思われているのが実態です。価格設定を見直し、わかりやすい価格表を提示することで、初回トライアルからのリピート率は上がる可能性があるでしょう。

偏差値への変換方法

偏差値の計算はエクセルで簡単にできます。図表3のグラフを偏差値にする場合、まずエクセル上で数値を図表5のように変換します。

図表5 エステサロンの選定基準とI 社の評価(表)

偏差値を算出したいセルに、次の式を入力します。
=(基となるデータ - AVERAGE(偏差値を取る範囲)) / STDEV(偏差値を取る範囲)*10+50

AVERAGEは平均、STDEVは標準偏差になります。日本語で書くと、以下の通りです。
(偏差値を求めたい値 - 平均の値)/標準偏差 × 10 + 50

その他の課題への対応

その他の課題としては、自社がターゲットにしている30代~40代の女性客が獲得できていないことです。実際に獲得できていない理由として、次のことが考えられます。

  • 一度来ているがリピートしていない
  • 知っているけど来ていない
  • そもそも知らない

そこで、現状30代~40代が獲得できていない理由を掴むために、年代別にI社に対する認知度・来店経験を聞きます。

その結果が図表6です。

図表6 I 社の認知度(調査設計と結果)

 

これを見ると、30代~40代女性において「認知はしているけど利用したことがない」という割合が最も高く、7割ほど存在していることがわかります。

したがって、問題は「知っているけど通ったことがない」ということになります。それは、図表4で示したように「立地」や「価格」面において評価が低いことが原因と考えられます。

ここまでの分析結果から導かれるI社の今後の戦略は、次のようなものになります。

  • 他社サービスと比較した上でコストパフォーマンスの良いサービス開発をする
  • わかりやすい価格設定を示す
  • 入りやすい店構えにした上で再度店舗の場所を告知する

また、30代~40代女性に対して「一度来てもらう」ための体験やイベント施策を実行することも考えられるでしょう。

商品やサービスについて、何かしら新しいことを始めるにあたって、消費者調査からのデータ分析が、事業を推進させることに間違いはありません。もちろん、データ分析をすることにより当初に想定していた改善施策や新規事業の仮説に間違いが見つかる可能性もあります。しかし、それでも一歩前進です。

今までと違ったことをするには、勇気がいります。ただ、闇雲にやることは、勇気ではなく、単なる無謀です。今回ご紹介した事例のように、データ分析を行うことで、進めようと検討している事業を行うか否かが判断できます。

ぜひ頭だけで考えるのではなく、定量的な材料をもとにしてデータ分析することに取り組んでみてください。

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【出典】齋藤健太問題解決のためのデータ分析