この記事では、マネジメントクラブの齋藤健太が実際にコンサルティングした「化粧品メーカーH社」の事例をもとに、消費者調査によるデータ分析で、新商品開発のリスクを下げる方法を解説していきます。

商品名などは伏せているほか、実態から大きく外れない範囲で数値データを加工していますが、実際に近いケースを扱うことで、この記事をお読みのみなさんが現実感を持ちやすく、現場のニーズを当てはめやすいものとなるよう構成しています。

齋藤健太
この記事を書いた人
齋藤健太
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表 / 『問題解決のためのデータ分析』著者

消費者調査によるデータ分析で実行リスクを下げる

商品開発や営業政策など新たな施策を打ったり、新事業を展開したりする際に、消費者調査によるデータ分析を活用することで、数値データに基づき行動することが可能となります。

特に大きな組織では、内部の説得に手間取ってしまい、新たな施策をなかなか実行に移せないことも多いようです。しかしデータ分析をすることにより数字で立証していけば、説得力が増して稟議が通しやすくなり、物事をスピーディーに進めることが可能です。ここでは、化粧品メーカーの商品開発事例をもとに、消費者調査によるデータ分析を解説します。

データ分析の実例 / 新商品開発のリスクを下げる市場調査

それでは、以下の実例をもとにデータ分析から打ち手の検討までの流れを解説していきます。

Case Study
業種

化粧品メーカーH社
課題
新規顧客獲得を目的とした新商品開発を行いたいが、どのジャンルの新商品が最も新規顧客の獲得に有利なのかが分からない。

戦略とは「誰に、何を、どのように展開していくのか」を考えることです。

消費者調査を実施する際も、上記のことを考慮する必要があります。

まず「誰に」ですが、こちらは自社の既存のメイン顧客層、あるいは獲得したい顧客層と考えてください。今回の場合は「成人女性」になります。

次に「何を」ですが、こちらは自社にて展開可能な商品、あるいは今後展開していきたい商品になります。A社の場合、自社工場を持っており、今回は大きな設備投資までは行わないため、既存の商品群である5種類のスキンケア化粧品「洗顔料」「クレンジング」「化粧水」「乳液」「美容液」になります。

今回は、成人女性500名に対してウェブ調査を実施することで、「新規顧客獲得」を目指すにあたって5種類のうちのどの商品をどのように展開していくのかを分析します。

データ分析は、以下のステップで進めていきます。

データ分析のアプローチ
  1. 目的の明確化
  2. 仮説の洗い出しと絞り込み
  3. 分析方法の定義
  4. 情報(データ)の収集
  5. 分析

参考:データ分析の効果的なアプローチ

目的の明確化

今回のケースでは、「ターゲットの成人女性に向けた新商品開発による新規顧客獲得」が目的です。

仮説の洗い出しと絞り込み

このケースでは、洗顔料・クレンジング・化粧水・乳液・美容液のうち、どれが新規顧客を呼ぶ集客商品となるのかで考えますが、業界特有の傾向から、洗顔料と化粧水が集客商品としてふさわしいのではないかと仮説を立てました。図表1のように仮説をロジックツリーで整理しました。

図表1 このケースにおける仮説図表1 このケースにおける仮説

分析方法の定義

各商品群の消費者動向
→ 使用状況や購入状況を比較することで、新規顧客獲得(集客)に向けて適切な商品を見極める

情報(データ)の収集

適切な商品を見極めるため、「各商品の消費者動向(使用状況・購入状況)」のデータを収集します。

分析 / 消費者調査をもとに商品の当たりをつける

それでは、実際にデータ分析を進めていきましょう。

世の中のほとんどの女性がスキンケア化粧品を使用しています。したがって、新規顧客を獲得するためには、すでに使用しているブランドからスイッチしてもらう必要があります。

そのためには、今、実際に使用しているブランドをどの程度の期間使っているのか知る必要があります。そこで、まずは「現在使用しているブランドの使用期間」について調査します。

調査設計としては、図表2のように、現在使用しているブランドの使用期間を尋ねる形になります。また、ウェブ調査を実施して実際に得られた回答結果が、図表3になります。

図表2 現在使用しているブランドの使用期間(調査設計)図表2 現在使用しているブランドの使用期間(調査設計)

図表3 現在使用しているブランドの使用期間(結果)図表3 現在使用しているブランドの使用期間(結果)

今回のように手元にデータ分析の材料がない場合、その材料となる数値データをつくるところから始める必要があります。

その際に消費者調査は有用ですが、闇雲に設計してはいけません。少なくとも数人の消費者に直接ヒアリングした上で仮説を立てて調査設計します。今回も事前のヒアリングで化粧品を購入する要素をある程度抽出して調査項目を決めています。

新規顧客を獲得するにあたって、できるだけ多くの客数を狙う場合、乳液と美容液は可能性が低いことがわかります。

なぜなら、成人女性全体の3割以上が使っていないため、より多くの新規顧客を取るには適さないと考えられるからです。

また、クレンジングも全体の17%の成人女性が「現在は使っていない」と回答しているため、「現在は使っていない」の回答割合が3%の「洗顔料」、6%の「化粧水」と比べると、新規顧客をより多く獲得していくためには弱いと考えられます。

ここまでの分析をもとに考えれば、新規商品開発は、洗顔料か化粧水に絞るのが妥当だと思われます。しかし、実際にはここまでの分析には「市場規模」の概念が抜けてしまっています。

TPCマーケティングリサーチ(株)の調査によると、それぞれの2016年度における市場規模は、以下の通りです。

  • 洗顔料 1,250億円
  • クレンジング 876億円
  • 化粧水 2,787億円
  • 乳液 995億円
  • 美容液 1,990億円

化粧水は、5つの商品カテゴリの中で最も市場規模が大きいですが、洗顔料は、化粧水の半分もありません。

また、洗顔料よりも美容液のほうが市場規模は大きいため、洗顔料は対象商品としてはそぐわないかもしれません。

このように、使用期間の結果を見ると、洗顔料→化粧水の順番で可能性がありそうに思えたものが、市場規模を見ると、化粧水→美容液の順番で可能性がありそうに思えてきます。

今回のようにデータ分析を進めていくと、時として異なる判断を迫られるような複数の分析結果に出合うことがあります。

そんなときこそ、データ分析の「目的」に戻ることが大切です。今回のデータ分析の目的、それは「新規顧客獲得」。より多くのお客様に買っていただくことです。

もちろん市場規模も重要な指標ではありますが、今回の場合はそれよりも「より多くの人が自社の新商品にスイッチしてくれるか」が重要になります。そうすると、図表3で「現在は使っていない」の割合が少ない商品のほうが購入するハードルは低いですし、「3カ月未満」の割合が多い商品のほうがブランドをスイッチしやすいと考えられます。

したがって、先ほど述べた「洗顔料」と「化粧水」に絞っていいでしょう。

具体的な新商品の仮説を構築する

では、次に洗顔料と化粧水において、どちらのほうが新規顧客獲得にあたって適切かを分析していきましょう。

商品の購入にあたり、考慮すべきポイントは、「購入頻度」と「購入金額」です。購入頻度が高いほど、ブランドスイッチ(今まで購買してきたブランドをやめ、異なる競合ブランドを購買すること)する機会が増えます。また、価格も安いほどブランドスイッチする抵抗が低くなります。

したがって、「購入頻度が高く、購入金額の低い商品」が、新規顧客獲得にあたって、より適切だと考えられます。そのため、図表4のように化粧品の購入頻度と購入金額の調査を設計します。その結果が図表5になります。

図表4 化粧品の購入頻度と購入金額(調査設計)図表4 化粧品の購入頻度と購入金額(調査設計)

図表5 化粧品の購入頻度と購入金額(結果)図表5 化粧品の購入頻度と購入金額(結果)

購入頻度に関しては、洗顔料が「1カ月に1回以上」と回答している割合が15%に対して、化粧水は9%となっています。

「2カ月に1回程度」あるいは「3カ月に1回程度」と回答している割合は洗顔料も化粧水も変わらないのですが、「1カ月に1回以上」と回答している割合が洗顔料のほうが多いことから、全体として「化粧水よりも洗顔料のほうが購入頻度が高い」といえます。

次に購入金額を見ます。こちらは大きく差が出ています。

「1,000円未満」と回答している割合は、化粧水が24%に対して、洗顔料は半数を超える51%となっています。

1,000円以上の商品を購入している割合は大きく変わらないのですが、1,000円未満に関しては、洗顔料と化粧水では倍以上の差が出ています。

ブランドスイッチのしやすさでいえば、化粧水よりも洗顔料のほうが明らかにしやすいといえるでしょう。

打ち手の検討 / 1,000円未満で購入できる集客商品をつくる

以上のことから、今回、新規顧客獲得にあたって、洗顔料を選択することに決めました。

具体的な展開方法として、次の2パターンで検討中です。

  • 顧客母数をより増やすのであれば、無料サンプル(あるいは100円程度)で集客し、1,000円未満の本商品へつなげる
  • 比較的高価格帯でコアなファンをつくり上げていくのであれば、1,000円未満のトライアル品で集客し、3,000円未満の本商品へつなげる

どちらの方法をとるにせよ、「1,000円未満で購入できる集客商品をつくること」が必要だと考えられます。

今回のデータ分析では、新規顧客獲得に絞ったものでしたが、実際の事業の中では、「獲得した新規顧客をいかにリピートさせていくか」も同時に考える必要があります。

とはいえ、この程度のデータ分析であっても、十分に「目的」を達成させるための施策が出てくるのです。

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【出典】齋藤健太問題解決のためのデータ分析